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生成AIを特定の絵柄に特化させる「LoRA」 著作権の考え方は? 弁護士が解説(1/2 ページ)

» 2024年04月02日 08時00分 公開
[前野孝太朗ITmedia]

 3月中旬ごろ、生成AI技術の一つ「LoRA」とイラストレーターの立場を巡り、SNS上で議論が巻き起こった。ある漫画家がX上で「自分の絵柄を模倣したAIモデル(LoRA)が作られて、嫌がらせを受けている」と投稿。これを受け、自身の作品のファンアートを含めた二次創作を禁止すると宣言し、話題になった。

生成AI技術の一つ「LoRA」が話題に

 LoRAとは、AIモデルに数枚の画像を追加的に学習させることで画像を特定の絵柄に寄せる技術。AIモデルを配布できるあるWebサイトでは、被害を訴えた漫画家の名を冠したLoRAモデルが配布されている。その説明文には「学習に使用した画像は全て自作したものであり、イラストレーター本人の著作物は一切使用していません。このモデルはどういう使い方をしてもらっても構いません」と記載が見られる。

 LoRAの技術を巡っては、イラストレーターなどのクリエイターからその是非を問う声がネット上で数多く上がっている。また、生成AIと著作権を巡っては、文化庁から「AIと著作権に関する考え方」という資料も公表されたばかりだ。そこで今回は、「LoRA」に関する著作権の考え方について、シティライツ法律事務所(東京都渋谷区)の前野孝太朗弁護士に解説してもらう。以下の段落から前野弁護士の文章。

「LoRA」に関する著作権の考え方は?

 今回は、「LoRA」と著作権に関する考え方について、先日公表された「AIと著作権に関する考え方」を踏まえて整理したいと思います。

文化庁が公表した「AIと著作権に関する考え方

 LoRAについては、SNS上でもさまざまな議論がされていますが、そもそもこの言葉自体、AIの学習手法や学習データ、学習済みのモデルなど、人によってやや用語の使い方に差があるようです。

 LoRAの用語の定義は本題ではありませんので、今回は、一般にLoRAに関する議論の対象となることが多い例として「特定のイラストレーター(Aさん)のイラストを学習データとして追加的な学習を行い、Aさん風のイラストを生成できるモデルを作る行為」と著作権法上の問題について、検討したいと思います。

LoRAの基本的な考え方

 まず、AIと著作権の問題を考える場合、開発・学習段階と、生成・利用段階に分けて検討することが重要です。今回の検討対象は、モデルを作る行為ですので、開発・学習段階の問題になります。そして、学習・開発段階では、著作権法の第30条の4という規定が重要です。

 第30条の4により、著作物は「自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」は、必要な限度で、著作権者の同意なく利用することができます(この目的を非享受目的といいます)。

著作権法30条の4(全文)

 開発・学習段階では、この規定を使って、AI学習のための複製を行うことが多いところです。第30条の4では「情報解析…の用に供する場合」が「自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」の例として挙げられていますので、AIの学習のための複製は、基本的に、第30条の4により著作権者の同意なく行うことができるのです。

 ただし、第30条の4による利用ができない場合が、大きく分けて2つあります。(1)享受目的が併存する場合と、(2)著作権者の利益を不当に害することとなる場合です。

 (1)については、条文上「自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に限って利用が認められているため、享受目的が併存する場合は、第30条の4による利用はできません。(2)についても、条文上「ただし…著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」とされていますので、これに当たる場合、第30条の4による利用はできません。

 そのため、開発・学習段階で、30条の4による利用を行う場合、(1)(2)の場合に当たらないかを検討する必要があります。

(1)は“イラストの創作的表現”が争点

 まずは、第30条の4による利用ができない1つ目のパターン、(1)「享受目的が併存する場合」に当たるかを検討しましょう。

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