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耳をふさがなくても「普通に聴ける」 動向が変わりつつある“ながら聴き”の世界小寺信良のIT大作戦(1/3 ページ)

» 2024年04月11日 09時30分 公開
[小寺信良ITmedia]

 従来のイヤフォやヘッドフォンは、音質もさることながらその遮音性もまた重視されてきた。音楽に集中できるということももちろんだが、電車内などでも快適にリスニングできるという機能性から、ノイズキャンセリング機能搭載のイヤフォン・ヘッドフォンはいまだ人気が高い。

米Bose 「Ultra Open Earbuds」

 その一方で耳を塞がない系、いわゆるながら聴きイヤホンの人気も高まっている。BCNランキング「ヘッドホン・イヤホン」部門の3月18日〜24日のデータによれば、30位までの間に米Bose 「Ultra Open Earbuds」、ambie「sound earcuffs」、米Shokz「OpenRun」といった製品がランクインしており、特に2月発売のBose 「Ultra Open Earbuds」は、4万円近い価格にも関わらず、3週連続でトップ10入りを果たすなど、上々の滑り出しを記録している。

 こうしたながら聴きタイプは、音楽を聴きながら周りの音にも注意が払えるという実用性が注目されており、その黎明期には知る人ぞ知るという製品が多かったが、現在は大手メーカーも参入し、一定の認知度、いわゆるキャズムは超えたところまで来たようだ。まだブームとなってそれほどの年数は経っていないので、今のうちにこのながら聴きタイプの変遷をまとめておこうと思う。

コロナ前の動向

 ながら聴きタイプのイヤフォンは、大きく分けると骨伝導系とダイナミックドライバ系に分けられる。シェアとしては一時期骨伝導の能力が上がった事で製品が一気に増えたが、現在は半々ぐらいではないだろうか。

 骨伝導という現象の発見自体は結構古く、ベートーベンの時代に遡る。近年振動子を使った電器製品として注目されたのは、補聴器としてである。オーディオ製品として活用された例で筆者が知っている一番古いものは、2004年に発売された東芝のプライベート音枕「RLX-P1」である。

東芝のプライベート音枕「RLX-P1」

 これは枕の中に骨伝導振動子が内蔵された製品で、寝ながら音楽が楽しめる機器として登場した。ただ頭蓋骨はかなり厚みがあるうえに、髪の毛でカバーされているので、なかなかうまく聞こえなかったと記憶している。それ以降、骨伝導を音楽再生に使う製品はしばらく途絶えることになる。

 耳を塞がないことをウリにした製品の登場はコロナ禍以降という印象を持っている人も多いかもしれないが、現在の流れに連なる製品はその数年前から登場していた。

 Ambieの最初の製品である「ambie sound earcuffs」は、2017年に登場したワイヤードのイヤカフ型イヤフォンであった。イヤフォン用小型ドライバーを音導管を使って耳穴のそばまで持ってくるというアプローチで、低音はほとんど出ないが、非常に開放感の高い音像を提供する。

「ambie sound earcuffs」

 ambieはもともとソニーのオーディオ関連製品を手掛けるソニービデオ&サウンドプロダクツ(ソニーV&S)と、ベンチャーキャピタルのWiLが共同出資で設立した会社である。ソニーでは2007年に、耳の近くでスピーカーを鳴らす「PFR-V1」と言う製品があり、耳を塞がないことによるメリットに早くから注目していた。ただ市場が上手く作れず、ソニー本体でなかなかやれないという事情があったようだ。

ソニー「PFR-V1」

 一方骨伝導はというと、2016年にShokz「TREKZ TITANIUM」が登場しているが、日本ではほとんど話題になっていない。日本で認知されるようになったのは、フォーカルポイントが代理店として大きくプロモーションした2017年の「TREKZ AIR」からだろう。

「TREKZ AIR」

 Shokzの骨伝導製品は主にスポーツ用に設計されており、ジョギング中に周囲の音が聞こえないと危ないという、都市型のジョガーをターゲットにしていたようだ。ただ独自開発の振動子が優秀で、低音が鳴らないという骨伝導のイメージを徐々に払拭していったのが、この頃であった。

 2018年には、ソニーモバイルからXperia Ear Duoこと「XEA20」が登場した。こちらもambieと考え方は近く、耳の後ろにあるドライバを音導管を使って耳のそばのリングから聴かせるという製品だ。

Xperia Ear Duoこと「XEA20」

 ただソニーモバイルからリリースされたことで、一般的なイヤホンというより、スマートフォンアクセサリという文脈で受け止められた。実際Xperiaと連携して1日のスケジュールをサポートする音声アシスタント機能がウリであり、ソニーとしてはどうしても耳を塞がないことの意味を見出したかったというのが伺える。

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