先日、リスキリングについて奇妙な質問を受けました。
「日本の会社員は学ぶ意欲が低いと言われていますが、その理由を教えてください。うちの会社でも、リスキリングは必要という認識を持っている社員は多いのに、実際に取り組む社員は少ない状況です。リスキリングを積極的に受けた方が自分の居場所を会社で得やすくなるし、何よりも転職しやすくなると思うのですね。社員の学習意欲を高めるには、どうしたらいいでしょうか?」
この日は、中間管理職など部下を持つ人たちに向けた講演会で、私はいつも通り最後に質疑応答の時間を取りました。そのとき、真っ先に手を挙げたある大企業の人事部の人が、こう質問したのです。
とはいえ、おそらく多くのみなさんは、私がなぜ「奇妙な質問」と感じたのか分からないかもしれません。
なにせ日本企業は「新しい横文字の概念」を輸入し、「日本独自の概念」に変えてしまうのが大得意です。ジョブ型、パーパス経営、ウェルビーイング、エンゲージメント……次々とカタカナを使って「僕たち仕事しています感」を醸し出してきました。
その横文字に込められ研究者たちの思い、その概念が提唱された背景や真実を深掘りすることなく「○○てっいうのが、米国で流行っていますよ!」「いいね! それだそれ。○○で行こう!」というかのごとく、目新しい言葉を使うのです。
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先日の自民党の総裁選でも、小泉進次郎氏が立候補した際「私が総理大臣になった暁には」の政策に解雇規制の緩和を掲げ「転職しやすくなるよう、リスキリングや再就職支援の義務付けを整理解雇の要件に加える」と述べました。
まさに、これがその現象です。リスキリングは本来、転職や雇用の流動化を目的にしません。「リスキリング=学び直し」でもありません。
本来のReskillingは単なる個人=働く人の学習の手段でなく、結果=企業の成果(生産性向上)につなげるための戦略です。リスキリングは「未来の雇用」のためのものであり、「新しい価値」を生むための、企業全体の取り組みなのです。
つまり、経営者のちゃんとした「経営戦略」があって初めて意味を持つ教育であり、一部の社員だけではなく、新入社員から経営サイドまでの全人材に対してリスキリングが行われることで、技能だけでなく、適応力、コミュニケーション能力、さまざまな企業や人たちと協働する能力、新しい仕事を創造する能力の強化を目的に行う取り組みです。
もともとはILO(国際労働機関)の「仕事の未来世界委員会」が2019年に公表した報告書で、「現在のスキルは、未来の雇用とマッチしないだろう。また、新たに獲得されるスキルも、迅速に陳腐化する恐れがある」と指摘したことで、Reskillingという言葉が知られるようになりました。また、欧米企業が、リスキリング志向を高めたのは「わが社の社員に投資した方がコスパがいい」という試算が示されたのがきっかけです。
世界経済フォーラムとボストンコンサルティンググループが、米国におけるリスキリングのコストを試算したところ、1人あたり約2万4800ドルで、社外から採用するよりコストを6分の1程度に抑えられると公表したのです(外部リンク)。
高齢化が進む先進国では、日本同様、労働人口が減少傾向にありますから、労働力をいかにして確保するかは共通した課題です。そんな危機感の中で「わが社の社員に投資した方がコスパがいい」というエビデンスが出され、リスキリング志向が高まっていったのです。
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